奈良県奈良市のお客様より、お譲りいただきました。
奈良一刀彫に新境地を開いた孤高の大佛師。
興福寺大佛師
竹林履中斎(高行)作の阿弥陀如来立像です。
頭光から放射状に伸びる光芒に目が釘付けになる小さな阿弥陀様です。
その頭光の中心にあるお顔はなんとも可愛らしい柔和な円顔。
弓形の目と表情はとても慈悲深く、見方によって優しい笑顔ようにも無言で諭しているようにも見えます。
まるで見る人の心の内を全て見通し、表情を変えて何かを語りかけているかのようです。
頭頂から蓮弁までを一材から彫り出し、華盤・反花・框はそれぞれ個別に彫り出し、組み上げられおります。
身丈の割に大きな頭、ふくよかな体躯は童のような印象を与え、とても愛くるしいお姿。
一方で蓮華座に立ち、来迎印を結ぶお姿は実に堂々とされております。
絶妙な角度の指先と細かな彫りに精魂が宿っています。
「南無阿弥陀佛」
無言の言霊が響き渡ります。
幼少期から小刀に親しみ、誰に習うでも無く類稀な技芸を会得していたという竹林高行。
当時の木彫界の第一人者達が驚く才能だったそうです。
しかしながら、
「顧客に媚びない一徹な芸道が敬遠され、高行自身も社会的地位に関心が薄かった」※1
ようで、それ故にその功績に比べ、世間一般に知られることなく、今では忘れ去られた大佛師と言われております。
高額な報酬、地位や名誉といった一切の煩悩から離れ
一度没頭すると時を忘れて、片時も鑿を手放さず、一心不乱に彫り続けたその姿は正に孤高の大佛師に他なりません。
今はまだ煩悩から離れることが出来ませんが、いつの日か、この阿弥陀様のような円く朗らかな顔の人間になりたい。
そう願い修行を続けて参ります。
下山拝
蓮華座底部に彫銘
大正十年二月二十七日
奉造立
奈良市興福寺大佛師
竹林履中斎
竹林高行
履中斎
明治二年(1869)生
昭和二十四年(1949)亡
享年81歳
奈良一刀彫竹林家初代
世の中の中庸を履むとの意から号を「履中斎」と称する。
奈良一刀彫りの第一人者である竹林薫風氏は子
※1
参考図書
安達正興著
『奈良きたまち 異才たちの肖像』
P247
前回の今日の一品「紫被切子鉢」