大阪府柏原市にお住まいのお客様より、獅子鈕牡丹文象耳香炉をお譲りいただきました。
真鍮で作られた重厚感のある香炉は江戸末期から明治初期頃に仏具香炉として作られたもので、経年による色艶からは毎日欠かさずに御香を焚いたことが見て取れます。
蓋には親子の獅子が鎮座しており、獅子の体には細かな毛彫が施され、親と子の表情や牙部分の細部に至るまで緻密に作られています。
身には牡丹の帯がめぐらされており、その下の窓にはそれぞれ異なったポーズの獅子が高浮彫で装飾されています。
なにか仏教の教えを表しているのでしょうか。
獅子は百獣の王と呼ばれることから、力や権威の象徴として崇められ、邪気や悪を祓う霊力を持つ聖獣として祭礼や儀式の場を清める役割を担ってきました。
その獅子が唯一恐れるのが体内に寄生し肉を喰らい死に至らしめる害虫。
害虫が牡丹の花から滴る夜露を嫌うことから、獅子は夜になると牡丹の下で眠るといわれています。彫刻や屏風絵などに獅子と牡丹の組み合わせが多いのもこの伝説が元となっています。
獅子身中の虫という仏教の教えを香炉の彫刻を通して説いているのかもしれません。
耳は象耳となっています。
象と仏教の関わりは深く、力強さや忍耐力を称えインドでは「動物の王」として尊ばれてきました。
あらゆる障害を除き、富をもたらす幸運の象徴とされています。
こうした獅子や牡丹、象のモチーフから邪気を払い招福をもたらすといった意味がこめられていることがわかります。
元々は五具足の一つでしたが、時とともに香炉だけが残り、大切に受け継がれたようです。
丹念に作られた造形だけでなく、そこに込められた意味を知ることで、よりお品ものを理解できたように思います。
この度は大切なお品ものをお譲りいただき誠にありがとうございました。
品名:獅子鈕牡丹文象耳香炉
産地:高岡銅器
時代:江戸末期-明治初期
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スタッフ日録:翡翠の簪#14